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その通信、Torを経由していませんよ|NordVPNのOnion over VPNを解説

本記事はプロモーションを含みます

NordVPNにはOnion over VPNという匿名化機能があります。NordVPNの公式サイトを見ると、いわゆる「Tor over VPN」として動作すると解説されています。

NordVPN公式サイトから引用した、Onion over VPNの解説画像。公式サイトでは「Tor over VPN」のように通信すると解説している。
Onion over VPNの説明(公式サイトから引用)

なるほど、これを見るとTor経由で送信先に到達するように見えますね。NordVPNを紹介しているブログ記事を見ても、大抵はOnion over VPNについて『Torを経由するので匿名性が高い』と解説しています。

でもそれ本当ですか?

NordVPNのOnion over VPN通信をキャプチャする

確かめる方法は簡単です。実際にOnion over VPNで通信し、通信先でパケットキャプチャして送信元IPアドレスを確認します。Torの出口ノードのIPアドレスは公開されていますから、キャプチャした際の送信元IPアドレスがTorの出口ノードのIPアドレスリストに含まれているのか確認すれば良いでしょう。

参考:check.torproject.org/exit-addresses

Onion over VPNは次のように接続しています。赤枠の箇所をクリックしてOnion over VPNで接続しました。Netherlands Onion #6というサーバーを使っているようです。

NordVPNアプリ画面。Onion over VPNで接続し、サーバーは「Netherlands Onion #6」であることが分かる。
Onion over VPNで接続している様子

パケットキャプチャするサーバーは手頃な価格で利用できるVPSを使うことにしました。幸いなことにConoHa VPSには1時間プランがあるので、メモリーを1GB搭載しているUbuntu Linuxが動作するVPSを契約しました。

HTTP/HTTPSがTor経由で通信するか確認する

Onion over VPNでもっとも利用されていると思われるHTTP/HTTPSを確認します。HTTP/HTTPSとはWEB通信です。皆さんが今ご覧になっているこのページもHTTPSで通信しています。

まず最初にVPSで次のコマンドを実行してパケットキャプチャを開始します。ポート番号はHTTPの80番とHTTPSの443番を指定します。

tcpdump -i eth0 -tttt -nn tcp and port 80 or 443

次にNordVPNを実行しているWindows端末でPowerShellを立ち上げ次のコマンドを実行します。IPアドレス(160.251.15.172)は今回利用しているVPSのグローバルIPアドレスです。

Test-NetConnection 160.251.15.172 -P 80
Test-NetConnection 160.251.15.172 -P 443

パケットキャプチャの結果は次のとおりです。上がHTTPで下がHTTPSです。

2023-08-11 18:36:52.442188 IP 192.42.116.200.15009 > 160.251.15.172.80: Flags [S], seq 4011548622, win 65535, options [mss 1460,nop,wscale 6,sackOK,TS val 3686880582 ecr 0], length 0
2023-08-11 18:37:20.843815 IP 185.220.101.20.25136 > 160.251.15.172.443: Flags [S], seq 3873586014, win 65535, options [mss 1460,sackOK,TS val 3532875786 ecr 0,nop,wscale 9], length 0

送信元IPアドレスは「192.42.116.200」「185.220.101.20」です。

Torの出口ノードのIPアドレスリストを確認すると、どちらのIPアドレスもリストに含まれていました。つまり、Tor経由の通信であるということです。

ExitAddress 192.42.116.200 2023-08-11 08:04:33
ExitNode 8E1CB2E2467989A9369284E09669AD0FD691075E
Published 2023-08-10 19:57:56
LastStatus 2023-08-11 07:00:00
ExitAddress 185.220.101.20 2023-08-11 08:28:29
ExitNode 82CD1F493545A0FA89EC05593B64B6B628DEADB7
Published 2023-08-10 22:01:25
LastStatus 2023-08-11 08:00:00

この結果からHTTP/HTTPSはTorを経由する「Tor over VPN」で通信していることが分かります。

SSHがTor経由で通信するか確認する

次にSSHを確認することにしました。SSHはリモートログインで使われる通信です。

まず最初にVPSで次のコマンドを実行してパケットキャプチャを開始します。ポート番号は22番を指定します。

tcpdump -i eth0 -tttt -nn tcp and port 22

次にNordVPNを実行しているWindows端末でPowerShellを立ち上げ次のコマンドを実行します。前回のHTTP/HTTPS通信のときと異なるのはポート番号だけです。

Test-NetConnection 160.251.15.172 -P 22

パケットキャプチャの結果は次のとおりです。

2023-08-11 18:42:34.349405 IP 213.232.87.219.50341 > 160.251.15.172.22: Flags [S], seq 903778852, win 64860, options [mss 1380,nop,wscale 8,nop,nop,sackOK], length 0

送信元IPアドレスは「213.232.87.219」です。

Torの出口ノードのIPアドレスリストを確認すると、このIPアドレスは見当たりません。つまり「Tor経由ではない」ということです。

では、このIPアドレスは何でしょうか?IPアドレスをWHOISで調べてみると次の回答がありました。

inetnum:        213.232.87.0 - 213.232.87.255
netname:        NORDVPN-L20190921
descr:          Packethub S.A.
country:        NL
org:            ORG-PS409-RIPE
admin-c:        AG25300-RIPE
tech-c:         AG25300-RIPE
status:         ASSIGNED PA
mnt-by:         de-tt1data-1-mnt
mnt-routes:     de-tt1data-1-mnt
created:        2019-09-21T12:49:37Z
last-modified:  2020-12-19T11:43:54Z
source:         RIPE

「213.232.87.219」はNordVPNが所有するIPアドレスのようです。

あれれ?ちょっと待ってください。気になる箇所があります。countryが「NL」となっています。つまり、Netherland(オランダ)のIPアドレスということです。

うーん…この国の名前、どこかで見たような気がします。

思い出しました!わたしが接続しているVPNサーバーは「Netherlands Onion #6」というサーバーです。

NordVPNのアプリ画面。Onion over VPNで接続中のサーバーがNetherlands Onion #6」であることを確認できる。
「Netherlands Onion #6」に接続している

もしかして「213.232.87.219」は、わたしが接続している「Netherlands Onion #6」のIPアドレスではないでしょうか?確認するためにOnion over VPNで接続中のWindows端末でWiresharkというパケットキャプチャツールを実行してみました。

以下のキャプチャはそのときのものです。WireGuardで「213.232.87.219」と通信しています。予想通り、これは「Netherlands Onion #6」のIPアドレスです。

Onion over VPNで接続中のパケットキャプチャ。
Onion over VPNで接続中のパケットキャプチャ

つまり、Onion over VPNで接続中にSSH接続するとTorを経由せずVPNサーバーが直接アクセスするということです。

RDPがTor経由で通信するか確認する

もう結果は分かっていますがRDP(Remote Desktop Protocol)も確認してみましょう。RDPはWindowsマシンにリモートアクセスする際に利用されるリモートデスクトップ通信です。

VPSで次のコマンドを実行して着信を待ちます。

tcpdump -i eth0 -tttt -nn tcp and port 3389

次にNordVPNを実行しているWindows端末でPowerShellを立ち上げ次のコマンドを実行します。IPアドレスは今回利用しているVPSのグローバルIPアドレスです。

Test-NetConnection 160.251.15.172 -P 3389

結果は次のとおりです。

2023-08-11 19:08:09.082695 IP 213.232.87.219.50567 > 160.251.15.172.3389: Flags [S], seq 2307983898, win 64860, options [mss 1380,nop,wscale 8,nop,nop,sackOK], length 0

送信元IPアドレスは「213.232.87.219」です。やはりRDPもTorを経由していません。このあとFTPなど別のポート番号も試してみましたがやはり送信元IPアドレスは「213.232.87.219」でした。

まとめ

まとめると、NordVPNのOnion over VPNはHTTP/HTTPSについてはTor経由で接続する「Tor over VPN」で通信しますが、それ以外のプロトコルについてはVPNサーバーが直接接続しているようです(全ポートを確認したわけではないですが、おそらくHTTP/HTTPSだけ)。

実はこの結果は最初から予想していました。というのも、いまのところTorはTCPのみサポートしているためICMPやUDPは「Tor over VPN」で通信できません。ですからOnion over VPNを使ったとしても、すべての通信がTorを経由するというのは無理筋な話というわけです。

SSHについてはTorを経由させる方法があるのですが、それはクライアント側(接続元)でプロキシ設定する必要があるので、Onion over VPNを使っているからといってSSH接続がTor経由になるはずがないんです。

普通に考えればTor経由になる通信は限定されるというのは当然なのですが、公式サイトでも詳しく解説していないので全ての通信がTor経由になるものと誤解されている方が多いのではないでしょうか。

ですから、Onion over VPNは仕様をよく理解した上で利用されることをおすすめします。

Tor経由でSSH接続したいという方は次の記事で詳しく方法を解説しています。興味のある方はご覧ください。

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2 COMMENTS

匿名

いつも勉強させてもらってます。TorについてですがAppStore のアプリにTorがあるのですがこれはパソコンのTorと同じ機能でしょうか。もしご存知でしたら教えて下さい。

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マスター

コメントありがとうございます。

Onion Browserを指していらっしゃるかと思います。
こちらはiOSの制限などにより、現時点ではパソコンのTor Browserと同じ機能は提供されません。

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